『銀座もの繋ぎ放浪記』

 先日、ラジオに出演した際「あなたの気になることは何ですか?」との問いに、大した返しもできなかったが、後々考えてみれば「屋上」。この話をしたらよかったということはよくある。このところ、取材で街を歩き回る仕事が続いた。それは一ヶ月間さまよい続けても大丈夫なぐらい懐事情が暖かなありがたい話で、海外に向けて「日本を表すカタチとはなんぞや」という難題にも挑戦できる機宜もあり、楽しめる散策になった。街を歩いて最初の一週間はウインドウショッピングとなんら変わりはない。二週間もすると表面が剥がれて、これは最初からあったかな?駐車場の奥のビルの隙間から、なんやこれは「ここでは服を着替えないで下さい」と殴り書いた当人でないとわからない注意書きなど目を虜にするものが現れる。普段目にしているのに見ていないことになっている「コウイウモノ」が日本を面白くしてるのだと開眼。三週間目にはピントが合ってくるのである。芋づる式に対象が現れるからキリがない。四週を過ぎると、痺れてキタ。ここは絵なのか。ゲンジツなのか。最終的に裏のボルトを描けばこの場所を表現できるのではなかろうかという境地で時間切れ、絵の制作に籠ることにした。

 取材で歩いたその場所をその日のうちに紙に描いた。屋上と側面の「俯瞰図」。街を歩いても屋上は見えない。屋上は、見えない不可侵なエロティック。散策時には想像するのがよろしい。悶々とアトリエにもどり、入口すぐの大きな机に広げた描き途中の絵を横目に荷物を下ろし、手を洗う。「大きさかくにん。しゅうちゅう!!」というメモをどかし、その日の出来事を描き進める。小さく小さく。大きくならないように。下描きはしないタチなのでゆっくりと丁寧に一発描き。ちいさな家はただの四角になってしまうが、それでも今日の匂いがつくのだから、不思議。絵には嘘が通じない。それを逆手にとって嘘をつかなければちゃんと成り上がってくれると云う仕掛け。

 銀座には二十代の頃から仕事で何度も訪れているけれどその都度見えるものが違う。資料で見つけた昔の銀座は、煌びやかさや、おもしろや。今もこの世も面白いと言いたくて、幅を利かせたニッチな視点を必死に探る。こんなところに「銀座」は落ちてないかな?

 「くらしに不安がない」今思えば、幸せな時であった。最近は「生活」という字をよく見るが「くらし」と書いた方が、日本を感じる。「コロナでくらしに不安がある」そんな時代だ。そんな中「街のワクチン」とまで言われるようになった「銀座 もの繋ぎプロジェクト」。発起人、銀座で百年「木挽町 よしや」三代目の斉藤大地さんから「絵を使いたい」とのお誘いで九十九社目に特別に参加。名店老舗大手の中、恥ずかしくない仕事をせねばとロゴとデザインを買って出た。百社目「UNIQLO TOKYO」でのチャリティTシャツ発売は話題となった。師走には松屋銀座で「もの繋ぎプロジェクト展」が開催。とても素敵に百社を紹介してくれた。こちらも力戦奮闘百社をイラストでまとめた「銀座 もの繋ぎMAP」を弟子と一時間睡眠交代制を用い一週間で仕上げた。

 「ハイアット セントリック 銀座 東京」二〇一八年一月に六丁目並木通り沿いに開業。納品した絵は全百六十四部屋の襖絵として飾られている。翌年の一周年にはホテルに宿泊しながら、一階サイドエントランスの壁に直接銀座を描いた。二〇一九年には仲間とユニットを組み、ネオンのクリスマスツリーを制作。その後コロナで休業。明けの二〇二〇年のクリスマスには「銀座 もの繋ぎプレゼントツリー」を企画、ディレクションを担当。プロジェクト参加企業七十社以上から届いたギフトボックスをエントランスに山積みにした。宿泊客から「朝起きてこんなにプレゼントが届いていたら一日中ハッピーだね」と。設営は松屋銀座「もの繋ぎプロジェクト展」と同時並行だったため一時間睡眠交代制の最中、サイドエントランスへのネオン常設設営までも行った。

 その後コロナ第三波到来、斎藤さんは「銀座 ひと繋ぎプロジェクト」を開始。まだまだ新参者の私。何かできないかと後追いで「銀座 もの繋ぎ放浪記」を始めたのである。

 もの繋ぎ六十一番目、「南蛮銀圓亭」の「ビーフシチュー」お肉がするっと体に染み込む。隣で食べているカレーライスも十秒で胃袋へ。え?じゃあ「ビーフカツサンド」とか「ハンバーグ」はどんなに美味しいんだろう…..また来よう。もの繋ぎ二十二番目、鶏の唐揚げ発祥の店「三笠会館 本店」の「骨付き鶏の唐揚げ」衣サクサクうま〜。後日「揚州名菜 秦淮春」の「自家製ゴマだれ入り坦々麺」も絶品だと。また行こう。もの繋ぎ七十一番目、「銀座にこういう店もあるんですね」数年ぶりに会う元ラガーマンの後輩と大衆酒場「銀座升本」にてメシ呑み。日本酒とオツなおつまみでお腹を膨らませて、銀座の街に繰り出した。もの繋ぎ二十六番目、「nailsalon Luxe」で「ジェルネイル」。基本女性のみですが特別に高橋さんもどうぞという流れになり、おっさん初めてのネイルサロンへ。「爪かわいい」を理解した日。もの繋ぎ四十四番目、フランス菓子の老舗「銀座ピエス・モンテ」の「アップルパイ」!「うちには十六時以降に来てください。商品が一番揃う時間なので」とのこと。夕日とお店の色が相まって艶かしい。味はというと「ん〜美味しい。なつかしいほっとする味。これ食べたことがある!」親父の銀座遊びの手土産を次の日に子供の頃の私が食べていたのかなぁ〜と空想が広がる。銀座の名店料理って、なんだか懐かしい。放浪してわかったこと、銀座は触れると熱い。もの繋ぎ七十九番目、日本に数々の洋食料理を広めた老舗レストラン「煉瓦亭」では、帰り際これ持ってきな!と丸々太った柿を頂き、もの繋ぎ三十八番目、ロゴのキャラクターが可愛い「銀座 日東コーナー 一九四八」では、入口で小一時間立ち話。話は食から宇宙の話まで。スタッフが止めてくれなかったら無限に宇宙を飛び続けていただろう。

 遠くまで歩いてしまった。「銀座で待ち合わせ」は憧れだが「屋上で待ち合わせ」も魅力的だというオチに仕立てたかったが当てもない。銀座はとても面白い。こんな時期だからこそ、上を向いて歩こう。

-「銀座百点」2021年4月号 ヨリ


20210310 ∞